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									| 薪を割るような生活 
 
 
 
 今回で6回目となったこのNKK2007。
 ちかごろいろんな感想を聞くわけです。
 「アレ、ずいぶん堅い名前だな。NKKって日本鋼管だろ?」とか、
 「リスのところが意味わからないです…」とかね。
 
 でも一番多かったのは「長すぎ!」って御意見。
 なんかやけに「長い」らしいね、ここ。長い?長いかなぁ…?
 ある友達に言われましたよ。
 「けーちゃん、ネットは15秒でパッ、パッとわからなきゃダメだよ。そういうメディアなんだからさ」って。
 でもそれ言われて余計に決意しましたね。わたくし。
 文字数を減らすどころか、逆に増やしてやりますよ。減ってるぐらいの勢いでね!
 
 15ビョウデワカッテタマルカ!
 
 そして今回。またもえらい長い(らしい)です。
 そこで、ひとつの提案として、何日かに分けて読むというのはいかがでしょうか?
 1日、1日、お茶の種類をかえたりしてね。アラ、OSHABOOじゃない?
 昨日の前半の感じからすると、今日は「ほうじ茶」が合うんじゃないかしら?なんてね。
 
 またしても無駄に長くなりますので蛇足はこれまで。
 今回は5月中旬から6月の中旬の頃の出来事を書いています。
 
 
 「15ビョウデワカッテタマルカ!」
 
 「15ビョウデワカッテタマルカ!」
 
 「15ビョウデワカッテタマルカ!」
 
 
 僕はこのことばを頭の中で繰り返しながら、斧(おの)を振りかぶった。
 東京ではもうとっくに花見も終わったというのに、まだこちらでは桜も咲いていない。
 しかしもうすでに、この土地の厳冬は始まっている…。
 それは大げさなのだが、大家さんの助言をもとに、ただ今、小生、薪をせっせと割っているところなのであります!
 というのも、夏になって木が乾ききってしまうと、割りづらくなるらしいのだ。
 それにね、たぶん夏は暑くてしんどいわ。これ。
 
 最近の僕らの生活といえば、朝一で畑パトロール(ニヤニヤしながら、優しい目でにんじんさんや、他の野菜さんを見つめるのが主な任務なのであります!)、その後薪割り、そして午後は家の補修、というルーティーンができあがりつつある。すべて今の時期にやらなければならないので、同時にどれも少しづつ進めると、結局どれも進行が遅い。特に家の補修は、思ったよりも長期戦になりそうな感じだ。
 
 こんなに日差しを強いのに、木陰では本当にクーラーの風のような冷たい風がたまに吹き抜ける。設定温度は17℃ぐらい。汗が出るくらいの運動には、ひんやりとして最高。
 斧を頭上にふりかざし、刃の角が木の幹の中心にめりこむように、おもいっくそ振り下ろす。うまく割れたときは、かなり気持ちが良い。
 
 パッ、コーン!! コーン! コーン!(リヴァーブ)
 
 薪が割れ、カランと、これまた良い音で地面に転がる。
 
 長くやって疲労してくると、暑さもあいまって頭の中がシンとしてくる。しかし汗はすぐに冷たくなる。
 実は想像以上に足も使うらしく、ちょっとフラつく。
 その頃には、僕は斧を振りかざす瞬間に、何かしらの「うめき声」を出すようになっていた。
 最初はピッチャーが最後の「決め球」を投げるときのような「ウッ!(わかる?)」。
 それはだんだんとそれはエスカレートして、「ヤッ!」に。
 その後、一拍おいて薪が割れる、
 
 ヤッ! パッーコーン!! コーン! コーン!(リヴァーブ)
 
 これが、また、気持ちいい!
 ところが不思議なのは、振り下ろす瞬間に何かしらわめいた方が綺麗に割れるってことなのだ。
 その法則を発見したものだから、なおさらのこと…。
 この家の近くには家はないのだが、すぐ近くの畑で農家の方が作業をしている。
 でも、ま、そういうことなので、この僕のこのうめきには、きちんとした理由がありますのでね。恥ずかしくない… 恥ずかしくない…
 
 薪割りはいつの間にか、もう口と体が勝手にやってくれてます。もうどれくらいやったんかな?止めたいんだけど、体が止めたがらない。
 
 割っていると、なんかしみじみいろんな感情が湧き出る。
 この冬にこの薪を燃やして温まり、湯を沸かし、その薪の灰を畑にまく。その灰が芋を育てる。その芋を俺たべる。俺うなる。そして屁をこく。それを吸う。俺うなる。そして当然温まる。その自然のサイクルに、少しだけ仲間に入れさせてもらえるような快感。
 こんな感じの中で、あれこれ湧き出る感情に忠実に生きていけば、絶対に間違ったところには行き着くはずは無いだろうという安心感。
 
 そういえば、この間、僕の薪割りを見ていたカトキチが、
 「スチャダラの歌詞で「竹を割ったような性格 / 薪を割るような生活」とかいうの、なかった?」とか言ってニヤニヤしていたっけ。
 ほんとそうだ。僕もあの曲を聴いていた当時、自分が薪を割るような生活に入るとは思ってもいなかった。
 
 「だから人生おもしろいんだねーっ!」 きゃっ!きゃっ!
 強い日差しの中、二人で飛び上がりながらハイタッチ!。
 飛び上がった瞬間、逆光の中で加藤君のおへそがちょっと見えた。
 ボクは想像以上にドキッとした。
 
 
 だって、● ● ●(で べ そ)なんだもん、彼。
 
 
 (スチャダラパーのその曲は「後者」という曲。 「馬鹿がつくほどの正直者 / 馬鹿であって尚お調子者」ってところも好きだったな。あと加藤君(カトキチ)はでべそなんかじゃない!まぁ、でべそでもいいんだけどね。というか、でべそであってほしい、仏茶毛。)
 
 僕もムラも、ようやくここの環境にも慣れたと言ってもいいだろう。
 最初にきた頃に印象的だったのは、まず泥、そしてホコリ、闇、人々のやさしさ。
 泥やホコリって「何をいまさら!」と思う人も多いだろうけど、今まで泥やホコリって日常にまったくなかったんだなと、あらためて実感している。今考えてみるとそれはそれですごい事だ。
 確実に履いている靴の種類が変わってきた。今、ほとんどは長ぐつを履いている。
 ズボンの裾や玄関に泥があるのはあたりまえ。いやじゃなかったど、最初はいちいち気にしていたからめんどくさかった。途中から気にするのを止めた。自由になった。
 
 次に印象的なのは闇。真っ暗だよー!ここ。
 今夜すべての闇がここに集結! 闇だらけの水泳大会。
 特に月の出ていない夜には、もう信じられないくらいに夜は「ド闇」。
 よく言うでしょ?「黒く塗りつぶしたような夜空」って。まさにそんな感じ。
 今はどんな田舎行っても、街灯のひとつぐらいはあるだうけど、ここにはそれが無い。
 いいもんだ「ド闇」。 クイズ「ド闇」ファドン!
 あと佐波くん、ドヤミ童話ってのはダメ?
 
 
 「夜になったらどうすんですか?」(純)
 
 「夜になったら寝るんです!」(吾郎)
 
 
 このセリフを確かに昔は笑った。 そして今も笑った。
 
 あと人のやさしさっていうのも、ここで感じる大きなもののひとつだ。
 実は上京した当時も今も、東京をギスギスしたところだとか、冷たいところだとか思ったことは一度も無い。逆にいろんな意味で住みやすいと感じたくらいだ。
 ただ最近は何かヘンテコな場面に、首をかしげる事は多くなってきていたかも。
 幼い娘の顔の前に無表情で中指を立てていた父親を見たときは、新時代の到来を感じざるえなかった。簡単に言うと、みんな「余裕」がなくなってきているのか?
 イッパイ、イッパイ、ジャパン! でもここは少々違う。
 
 ある日の夕方、カトキチが富良野にバスで帰ってきたので、僕らは彼を迎えにノコノコ行った。バスの到着時間まではまだ少しある。僕はビデオカメラを持ちながら、そのへんをうろうろしていた。銀行の前にビデオカメラを持って立っていると、通りの向こう側から男がこっちにむかって何かわめいている。
 
 俺? ここ撮影禁止?
 
 銀行の前だから保安上の問題か何か? とは言っても、もう銀行しまってるべさ…。
 めんどくさい人に会っちゃなぁ。まだ大声でわめいているよ…。
 男はかなりラフ(すきだらけ)な格好、ラフなだけになおのこと怖い。
 オレンジ色の街灯がちょっと暗く表情まではわからない。
 最初、聴こえないふりをしようとした僕だったが、もう明らかに聴こえる大声。
 というより、わざわざ方向を変えてこっちに近づいてくる。
 
 「こっ、怖っ!」
 
 その髭面の男は近づきながらも、まだわめくことを止めない。
 こういう時は、気持ちから逆に出ていかないとやられてしまうよね?佐波君。
 
 「なんだこのやろう!ここでカメラ持って立っていちゃ悪いのか!え?(それぐらいの気持ちで)」
 俺は男の方に向かって近づいていった。男も俺の方に近づいて来た!。
 
 男のわめいている内容が、じょじょにわかってきた。
 
 「そこの銀行のATM、もう閉まって使えないよー。もしお金下ろしたいなら、そこの信号出て左にコンビニがあるから、この時間だったら、ここらはそこしか空いてないよー」
 
 オレンジ色の街灯に照らされた髭面は満面の笑顔だった。
 それを言いたいがために、あの髭面は何回も声を枯らしていたのだ。
 
 完 敗…。
 
 「あっ、ありがとうございます!」
 
 ずいぶん、すいぶんになっちまっているんだな…オラ。
 「余裕」の無い男の顔面を、オレンジ色の街灯が寒々しく照らす、それは富良野2007年春の出来事。
 
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