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									| この世の不幸はすべての不安 
 
 
 
 「クロパロ~ン、クロパロ~ン、あたしクロバロ~ン!クロパロ~ン、クロパロ~ン、おのれクロバロ~ン!」
 
 「みんなが夢中になって 暮らしていれば~ みんなが夢中になって 暮らしていれば~ 別になんでもいいのさ~」
 
 クロを後ろに引き連れ鼻歌歌いまくりの5月3日朝。クロは段々と「着いてくる猫」になってきた。歌うのは自作または他作(フィッシュマンズ)。その差歴然。
 
 「小鳥さん、おはよう。今日の朝は何を食べたの? 僕? 僕はこれからなんだ。昨日の夜にニラが残ったからそれを食べるんだ!」
 
 最近、もう本当に久々に(10年ぶりくらいかも?)フィッシュマンズ周期に入っている。「空中キャンプ」が一番好み。もう何回聞いたろ?これ。
 初めて聞いた時、出だしの20秒で閃いてから…1000回ぐらいは聞いていると思う。だって1年以上毎日これ聞いてたから。
 今までよりも、ちょっと良い音と、ちょっとデカめの音、気持ちの良い空気の中で聞くと、気がつかなかった音の肌触りと、彼らの気配りがハッキリと分かった。
 今一番自分とピンが合う部分は佐藤伸治の残した詩。
 彼に選ばれたひとつひとつの言葉が、彼に見えていた世界を僕に流し込んでくれる。
 そのとき言葉はすでに言葉の形をしていない。
 気持ちと時間がとろけたペースト状のようなもの。
 なんか、普通にすごいところで歌ってたんだな、彼。いまさらだけど。
 
 「みんなが夢中になって 暮らしていれば~ みんなが夢中になって 暮らしていれば~ 別になんでもいいのさ~」
 
 そうさ、別になんでもいいのさ。
 
 最近正直とても楽しくて楽しくてしょうがない。朝起きると文句が見当たらない。
 別に楽しいことをやっているってわけじゃなく、今までと変わらない生活が続いているだけなんだけど。意味もなく楽しいっていう経験は今まであまりないな。これって躁病なの?でもそれがたとえ躁病でも…
 
 「無問題(もーまんたい)!!」
 
 と叫びながら頭上で手をクロスさせ「X」の文字を作る。ヤベェ、理由もないのに楽しくなってきた。気がつくと歌いまくってる。この根拠の無いうきうき感。前回にも書いたけど、やっとここでの生活がしっくりきはじめているんだと思う。
 今朝も日課である「野菜(種)への声かけ」ではじまる。
 
 「野菜さん、お~は~よ~!」
 
 「シンイリスァン、やけにご機嫌ね!」横から何かが出て来た。
 
 「おっと、君はリスのSOOじゃないか!」僕は言った。竹中直人のように。
 
 「何? その芝居がかった物の言い方は」
 
 「めちゃくちゃ久しぶりじゃん! 何? やっと冬眠から起きた?」僕は両手を合わせ、それを頬にあて枕のようにして見せた。決してからかったつもりはなかったのだが、彼女はこの能天気面(ずら)に少々カチンときたようだ。
 
 「そんな暇ないわよ、バイトよ、バイト!」
 
 彼女は荒っぽくそういい放ち、しっぽを膨らませた。
 僕はリスがバイトをしている絵を頭の中で膨らませる。冬はここらにはあんまり仕事もなさそうだからな。工場のラインとかに居たのかな?無理じゃねーの?リスには。でもラインに働いている人のお手伝いならできるかもな。ネジとかちょこちょこ口から出すの。
 妄想を膨らませている間に彼女のしっぽも元に戻っていた。
 
 「今年も畑はじめたんだ…」リスが言った。
 
 「はじめるに決まってるべ? そもそも去年はできれば儲けもんみたいなつもりだったから、ただ種を撒いただけって感じだったけど、今年はちょっとは勉強したよ。あっ、そこ入るなよ!そこ人参植わさってるから。ま、リスに踏まれてもたかが知れてるけど」
 
 「たかがって! 入んないわよ!」
 
 せっかく久々なのに、何か噛み合わない。
 
 「勉強ってこれ?」 玄関先の木の椅子の上のそれを指してリスが言った。
 
 「そうだよ、これだよ。ダメ?「マンガでわかる野菜の作り方100」もうこれが最高!!」
 
 「もうこれが最高!!」の部分は田中邦衛のマネで言ったのだが、リスにはわかるはずもない。言った後に気付く。しかしこのマンガを読んでいるというのは本当の事であって、結局何冊か読んだ野菜本の中で一番めくっているのはこの本。ちなみに僕は普段マンガは全く読まない。
 
 「シンイリスァンは好きなんだね、こういうの」リスが言った。
 
 「こういうのって漫画?」僕が言った。
 
 「違うわよ、畑よ」
 
 「どうなんだろね? でも好きなんだろね、こういうの」
 
 「だって楽しそうだもん」
 
 「でもこれ、喰えなきゃたぶんやってないよ。喰えるもんを自分で作るってところが一番おもしろいからさ。だから単に土いじりが好きってことでもないと思うんだよな」
 
 「それに来年あたりは食料問題も本当にシャレこなんないことになりそうじゃん。ここに来たのも、遅かれ早かれそういうことになると思ってたからっていうのもあったけどさ、まさかな。だから今年はじゃがいも、がっつり植えたもん。好きじゃないけど、保存きくから」僕は調子に乗って少ししゃべり過ぎた。
 
 「心配しすぎじゃない? 新聞が不安を煽っているときは、そこに何かしらの意図があると思った方がいいわよ。人は不安には操られやすいから」
 
 「じゃがいも植えるくらい、俺の勝手だろ?」
 
 「そうね」
 
 なんでもムキになる癖は、もう死ぬまで直ることはないのだろう。
 
 「たくさんなるといいね。夏は遊ぶの? 海とか行くの?」
 
 「海ねー、俺、実はあんま海に興味ないんだわ。泳げないってのもあるんだけど」
 
 かなづちは高校を選ぶ重要な基準になった。
 プールがない高校をわざわざ選んだにもかかわらず、結局、僕は臨海学校で溺れかけた。これはがちがちで。高校のときの友達と会うといまだにその時のマネをされる。
 
 「へー泳げないんだ。わたしなんて海、見たことすらないのよ」リスは言った。
 
 「えっ!ないの? あっ、そーか!見た事なくて当然なのか…。じゃ、今年行く?」僕は言った。
 
 「えっ!シンイリスァン連れてってくれるの! やったぁ。すごくうれしい。 じゃー水着買っちゃおーかな?」
 
 「えっ!水着要らないじゃん。もう君、すでに全部丸出しじゃん。別にそのまま泳げばいいんでないの? 泳げればの話だけど」
 
 なんか、俺、また怒らすことを言ったみたい…。
 しっぽがいきなり膨らんだかと思うと、SOOはさっさと向こうに消えてしまった。僕はオレンジの中一人たたずむ。
 
 まぁ、いいや。また来るさ。
 
 朝一の気分の良さに水を差された気もしなくはないが、僕はまた畑の中を徘徊しはじめた。
 畑に声をかけるというのは、冗談どころか紛れも無く本当のことだ。
 これは野菜作りの名人であるタネちゃんのお母さんが毎日やっていること。声をかけるというより会話している。まるで自分の子供のように接している。実際、名人が作った野菜は味が濃くて美味い。つまり、僕はこれを安直にマネしてるってわけ。たぶん、それが美味い野菜作りのコツなんじゃないか?と考えて。
 でも言葉というか愛情というか何かが伝わるっていうのはたぶん間違いないんじゃないかな? 俺はそう思うよ。
 
 同じような事を言っている人は他にも居る。アムプリンで使っている卵を作っている大西さん。
 ちなみに、この人に僕らはもの凄くかわいがってもらっている(つもり)なのだが、この道40年以上の大西さんの出した結論がある。それは
 
 「鶏も野菜も単なる「製品」ではなく、まぎれもなく人間と同じ「生き物」であり、そのつもりで日々接してあげなければならない。言葉は通じなくても生き物同士であるからには伝わるものは伝わる。作る側にとって最も大事なことは、毎日いかに明るく健やかに暮らしているか? すなわち、それが結果を左右しているってことらしいぞ!と。おまえたちも仲良くやんなさいよ」
 
 この結論は大西さんが何十年もの間、卵の産卵数をデータを取っていく上で確信したことらしい。何故か産卵数が落ちる日があってよくよく調べてみたら、その前の晩に必ず夫婦喧嘩してたんだと!
 鶏舎と自宅は離れているし、両人とも声が大きい方でもない。鶏にわかるわけはない筈なんだが、その一致は間違いないと。何かが鶏に伝わってストレスをかけていると。(ちなみに大西さんには次回depthJAPANに登場してもらう予定です。末永くお待ちを)
 
 だから僕は今日もやさしく声をかける。おだてる。
 今年の自分の野菜は美味いはず。だって今とても気分が良いから。
 
 こんな風にして作った野菜。今年は自分達で食べきれない分は、このサイトを通じて物々交換しようと考えている。みなさん、僕の「声かけ野菜」いかがですか?
 
 「声かけ野菜」メンバー募集
 平沢を中心に活動している「声かけ野菜」です。
 当方、干物、酒、玄米 希望。ノリの分かる方。テク不問。道内優先。
 ノークレーム、ノーリターンで。
 
 野菜の何にこんなにハマっているのだろう?ときどき自分でも考えてみることがある。
 まず(くどいようだが)「食べられる」ってこと。
 そしてそれが今まで食べたものとは別物になることが多いこと。
 あとやっぱり、性格的にこういう地道な積み重ねの作業が向いてるんだな、たぶん。
 僕はガサツだけど凝り性というかマメ。地味。外から見える印象よりは遙かに地味な性格だと思う。ガサツで凝り性っていうのは一見矛盾してるけど矛盾していない。ちなみにその反対がカトキチだと思う。
 つまり細かいんだけどあんまこだわらない。要領を楽しむタイプ。
 カトキチは今年新しい竿を買った。つまりそういうこと。
 
 でも周りの農家の方から野菜をごっそりもらえるこの環境で、何故わざわざ自分で野菜を作るか?その一番の動機はといえば、何か自分の作品を長い時間かけて作ってる感覚に似ているからなんだと思う。プラモデルと近いかも。これは自分でも最近気付いたんだけど。
 
 いくつか読んだ野菜本の中に、自分の野菜菜園を持つ男優を取材した写真が載っていた。
 それを見た瞬間、僕は「これだよ、これ!」と心の中で呟いた。
 
 畑にちょこんと座り、自分の作ったトマトをうれしそうに眺めている彼。
 彼の脇にはお盆があり、その上にはビール瓶とグラス。
 
 そうそう、この感じなんだよ。
 
 決して言葉にはできないけれど、僕はその男優が野菜を作ることの何処にソソっているか良く分かった。同じ、同じ。
 
 ま、理由なんて別になんでもいいんだけどね。
 
 そうさ、別になんでもいいのさ。
 
 消えていたクロがやんわりと現れていた。
 僕の後ろ、つかず離れずの距離でごろんちょして背中を土になすりつけている。
 
 クロ帰るぞ!
 
 
 家の中に戻るとムラがニラを炒めていた。
 
 
 
 
 今週読んだ105円本
 「国境の南、太陽の西」村上春樹著
 
 ※6月30日からBBJAPAN(掲示板)始めたのでよろしくお願いします。
 同時にselloutというメニューでTシャツと、3pointsupperによく出てくるあの器、作家柳下季器の作品も扱い始めることにしました。どちらもよろしくお願い致します。
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